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の世界で邪悪と決めつけられるものに胸をはずませた。日々の生活がマロウンにとっては、不気味な影の研究のおこなえる変幻きわまりない魔術幻灯じみたものとなり、ビアズリーの最高の技法による作品のように、秘められた腐敗を漂わせてきらめき睨《ね》めつけ、ギュスタヴ・ドレのいわくいいがたい幽暗な作品のように、ありふれた形態や物体の背後に潜む恐怖をほのめかすのだった。高い知性をもつ者がもっぱら内奥の神秘をあなどるのを、マロウンはしばしば慈悲深いことだとみなしたものだが、それというのも、すぐれた頭脳が太古の卑しい邪教によって保たれる秘密に直面させられるとすれば、その結果生じる異常事態は、たちまちにして世界を破滅させるばかりか、いまあるがままの宇宙そのものを脅かすと考えられるからだった。こうしたことにつらつら思いをはせるのは紛れもなく病的なことだとはいえ、犀利《さいり》な判断力と深いユーモア感覚にうまく補われていた。マロウンは自分のいだくさまざまな考えを、なかばうかがった禁断の洞察のままにとどまらせ、それらを気軽にもてあそぶことだけで満足しており、職務によっていきなりいつのまにか、遁《のが》れることもできないまま、地獄めいた事実の啓示に投げこまれたときに、はじめて抑えのきかない恐慌状態におちいったのである。
 マロウンはしばらくブルックリンのバトラー・ストリート署に配属されていたことがあり、そのときレッド・フックの問題に気づくようになったのだった。レッド・フックはガヴァナーズ島にむかいあう古びた海岸通りに近い、混血の者たちが住

むいかさま迷宮じみたむさ苦しい地区で、埠頭《ふとう》からは穢《きたな》らしい公道が何本か、あの一段高い土地へと丘を登り、そこからは荒れはてたクリン浸會大學BBAトン・ストリートとコート・ストリートが、長ながと区役所にむかって伸びている。レッド・フックの家屋はほとんどが煉瓦造りで、その建築時期は十九世紀初頭から中葉にかけての時代にさかのぼり、あまり人目につかない小路や脇道のいくつかには、伝統的な読書をしている者なら「ディケンズ風」とでも呼びたくなるような、あの魅惑的な古色|蒼然《そうぜん》たる趣きがないわけではない。この地区の住民たるや、絶望的なほど錯綜した謎以外の何物でもなく、シリア人、スペイン人、イタリア人、黒人の要素がたがいに影響しあっている一方、小規模なスカンディナヴィア人地区やアメリカ人地区がさほど遠くないところに位置している。ざわめきや卑猥《ひわい》な言葉が騒然と湧きおこり、油ぎっ

た波が汚れた埠頭を打つ音、そして巨大なパイプオルガンめく港の汽笛に応えるように、異様な喧騒を送りだしている。この地区にも遠い昔には晴れやかな美観が見うけられ、下町の通りには目の澄みきった水夫たちの姿、いまより大きな家屋が丘に沿って建ちならぶところには、趣味のいい裕福な家庭があったものだ。こういった往時の幸福な浸大BBAたたずまいは、建築物のととのった形、おりふし目にとまる優美な教会、そこかしこの細部の断片に認められる元の彫